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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)4512号 判決 1970年6月26日

原告 株式会社藤井製作所

右代表者代表取締役 村上等

右訴訟代理人弁護士 野村幸由

被告 日本住宅公団

右代表者総裁 林敬三

右訴訟代理人弁護士 草野治彦

同 上野健二郎

右訴訟代理人 相馬憲孝

同 竹内進次

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、(原告と八十二銀行との間の土地処分)

原告が従前本件土地を所有していたことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を総合すると、つぎの事実を認定することができる。すなわち、原告(当時不二越精工業株式会社と称した)は、昭和二五年五月頃経営不振で事実上閉鎖し、当時の代表取締役亡藤井忠二より訴外亡藤井哲夫が、会社債務整理等につき依頼をうけ、代表取締役の印も預りその任に当っていたが、原告の社会保険料の滞納については、訴外株式会社八十二銀行にその立替え支払いを依頼していたほか、原告は訴外大洋海運株式会社との間にも金銭上の紛争をかかえ、同銀行の当時の審査部次長倉石基雄が仲介の労をとりこれを解決し、また同人は後記認定の原告の特別管理人の補助者として管理事務を補助していた。原告と八十二銀行はこのような関係にあったが、同二七年、藤井忠二、藤井哲夫と倉石基雄との間で相談のうえ、原告の経営が安定し債務を弁済したときにはこれを原告に返還するが、その間同銀行が管理するとの約束のもとに、同銀行の原告に対する金銭債権の担保として、会社財産保全の目的を兼ね、本件土地を含む当時の川崎市木月住吉町一、八八五番地宅地六、〇四二坪(一九、九七三・五平方メートル)を、同銀行に対し売買の形式で所有権を移転する旨合意し、同年八月四日横浜地方法務局川崎支局受付第一〇、〇〇五号をもってその旨登記手続を経由した(右登記手続がなされたことについては、当事者間に争いがない)。

以上のように認定することができ(る。)

≪証拠判断省略≫被告提出の乙第一四号証(取締役会議録)、同第一五号証(特別管理人承認書)は、証人倉石基雄の証言によれば、原告と八十二銀行との間の右土地処分に際し、藤井哲夫より倉石基雄に交付された書面であって、いずれも右土地処分の趣旨について記載されているものであるが、後に説明するとおり、文書の作成者として表示されている(従って挙証者である被告が、同人らによって真正に作成されたものと主張している)藤井忠二、山本留右衛門、市川知命、西村正喜、古沢寛吾らの不知の間に、原告の当時の事務員訴外荒瀧靖夫が起案し、おそらく藤井哲夫が右五名(少なくとも藤井忠二、古沢寛吾を除くその余の三名)の印章を押捺して作成したものと推認されるので、右各文書は真正に成立したものとは認められない。しかし原告と八十二銀行との間の右土地処分は、原告側は藤井哲夫が、同銀行側は倉石基雄が、それぞれ中心となってなされたものであるから、右両名間において、土地処分時にその趣旨を記載して授受された文書と認められる以上、たとえ文書に作成者として表示されたものにより作成されたものでなくとも、右土地処分の趣旨を表現するものとして、その限りで証拠として採用することができるものであるところ、右各書面には、前記土地は、原告の同銀行に対する金一、八三六、四三五円の債務の代物弁済として売渡すが、弁済の方法・時期は、同銀行の選択による旨記載されており、あたかも代物弁済として所有権を移転する如く表現され、かつ、返還についての約定は記載されていない。しかし、後記認定のとおり、八十二銀行は、右土地所有権を取得してからもこれを処分することなく、同二九年一一月に至り、原告の事業を事実上承継していた訴外不二越精機株式会社より、同会社の経営好転を理由として右土地の返還を要求され、これに応じて、当時の原告に対する債権額に若干の工作物代金を加えた代金で、同会社に売買の形式で所有権を譲渡しており、このことと、右各書面が代物弁済と表現しながら、弁済の充当・時期を右のように別に定めていることよりみれば、本来の代物弁済ではなく、前記乙第一一・一二号証において、証人藤井哲夫が供述するところを採用して、前記認定の趣旨の譲渡担保として、所有権が移転されたと認定するのが合理的である。

二、(右の所有権移転が無効であるとの主張について)

原告は、原告と八十二銀行との間の前記所有権移転は無効であるとして、その理由を種々主張するので、この点について判断するに、

(一)  右所有権移転について、原告会社の取締役会の決議が存在せず、八十二銀行(担当者倉石基雄)はそのことを知っていた、との点については≪証拠省略≫によれば、前記土地六、〇四二坪は、広大な土地であるうえ、原告の本店所在地であって、工場敷地をなしていたものであることを認定することができ、これを譲渡担保に供することは日常事務の執行とは解し得ず、その処分につき代表取締役藤井忠二に権限が与えられていたことを認定するに足る証拠もないので、右土地処分は取締役会の意思決定に服すべきものであったと考えられる。そして右決議がなされた旨の記載のある前記乙第一四号証(同二七年七月二五日付の取締役会議事録)は、≪証拠省略≫によれば、山本留右衛門、市川知命、西村正喜不知の間に、当時の原告の事務員荒瀧靖夫が起案し、おそらくは藤井哲夫が右三名の印章を押捺して作成したものと認められるので、右決議のあったことを認定する証拠となし得ず、むしろ右各証拠によれば、右決議はなされなかったものと認めるのが相当である。しかしながら、本件のごとく取引の安全を顧慮すべき行為については、取締役会の決議の欠缺は、会社内部の意思決定を欠くにとどまるものとして、取引行為自体の効力を妨げるものではないというべく、ただ相手方が右決議の欠缺を知り、又は知り得べかりしときに限って、これに対し取引行為の無効を主張し得たに過ぎないと解すべきところ、≪証拠省略≫によれば、同人は、右契約をなすに先立ち、藤井哲夫に対し、取締役会の決議を得るよう要請し、同人から右乙第一四号証の議事録を呈示されその旨決議があったものと考えて契約を締結した事実を認定することができるので、結局右契約は有効といわねばならない。もっとも≪証拠省略≫には、右議事録は、倉石基雄から原稿を手渡され、そのとおり起案したものである、という部分があるが、右部分は≪証拠省略≫に照らしてたやすく措信できないし仮にそのとおりであったとしても、右各証言によれば、荒瀧靖夫は、起案した議事録を一旦藤井哲夫に手渡し、同人が所定場所に前記三名らの印章を押捺してから、これを倉石基雄に呈示したものであると認められるので、このことからすれば、≪証拠省略≫をもってしても、倉石基雄が決議のないことを知り、又は知り得べかりしであったと認定するには足らない。

(二)  物的会社たる株式会社の本質に反するという点については、株式会社の営業遂行上不可欠な重要財産であっても、会社債務担保のためその所有権を債権者に移転することは株式会社の本質にも、会社の目的にも反するものとは言えないので、右主張も採用できない。

(三)  特別管理人の承認不存在の点については、≪証拠省略≫によれば、昭和二七年当時、原告は会社経理応急措置法の特別経理会社に指定され、特別管理人として山本留右衛門、西村正喜、飯島正一(旧債権者八十二銀行代表者)、渡辺忠雄(同株式会社三和銀行代表者)の四名が選任されその登記がなされ、本件土地処分の時以前に、右飯島正一は死亡し、同人に代って八十二銀行の指名で、新たに同銀行代表者小出隆が、特別管理人に選任された(但しその変更の登記はなかった)ことを認定することができるところ同法第二二条第一項ないし第三項本文、第一九条によれば特別経理会社は、会社財産(特別経理会社が指定時現在において作成した財産目録記載の不動産等を言う。同法第七条第二項、第五条)を譲渡し、又は質権もしくは抵当権の目的としようとするときには、同法施行令(昭和二一年勅令第三九一号)第二二条所定の場合を除いて、特別管理人の過半数(管理人なきときは主務大臣)の承認を受けることを要し、この承認を受けないで会社財産等を処分した場合においては、その処分は無効とされている。

もっとも、同法は、特別経理会社につき、企業再建整備法による本格的な企業再建整備が実行されるまでの、応急的措置を定めるものであるところから、整備計画の認可との関係で、つぎの場合、すなわち(イ)特別経理株式会社が決定整備計画に定める資産の処分を行なう場合(企業再建整備法第二八条第三項)、(ロ)指定時現在の資本金一、〇〇〇、〇〇〇円以上の特別経理会社等の特別管理人が、主務大臣に整備計画の認可申請をなし、これが認可された場合。但し、決定整備計画において第二会社を設立し、又は新勘定所属財産で決定整備計画に定める相当部分を出資し、譲渡し、賃貸する旨を定める場合においては、第二会社の設立の登記をした日、又は決定整備計画に従い、出資、譲渡、賃貸等した日(これらの日が二以上ある時は、その最も遅い日)以降の処分(同法第三八条、第三六条第一項第一号、第一五条第一項ないし第三項、第五条第一項)、の各場合には、会社経理応急措置法第二二条の適用が排除されることになっている。そして原告は、原告と八十二銀行間の前記土地処分の当時、原告の整備計画が立案、認可されていたこと、自ら不利な事実を陳述しているので(被告はこれに対し不知と答弁している)、仮にそのとおりだとすると右土地処分が前記(イ)・(ロ)のいずれかの場合に該当し、同条の適用は当時既に排除されていた可能性があることになる。しかし、文書の趣旨、方式に照らして、原告の特別管理人が立案した整備計画の各一部と認定される乙第二〇、第二三号証の他には、右整備計画の立案、認可の過程、内容等につき、これを認定するに足る資料はなく、右各証拠のみでは原告につき整備計画が立案されたことを推認しうるに止まり、進んで、これが認可のための申請がなされ、あるいは認可されたことまでも推認しうるものではなく、むしろ被告において、その余の整備計画、その申請・認可の過程等につき少しも主張・立証せず、かえって、特別管理人の承認が存在したと積極的に主張し、その立証を試みていること、および、本件全証拠によるも、原告の整備計画の実行としてなされたと解される会社財産等の処分の例が全く見当らないことに鑑みれば、前記整備計画案は、主務大臣に対する認可申請又は認可の段階に至らずして、放置されて来たものと認定するのが相当と解せられる。従って、原告の前記土地処分については、会社経理応急措置法第二二条の適用があったものと言う他ない。

そこで、特別管理人の承認が存在したか否かにつき判断するに、前記乙第一二号証中、長野県戸倉温泉において特別管理人会を開催し、その承認を得たという趣旨の部分は≪証拠省略≫に照して措信できず、昭和二七年七月二六日、特別管理人小出隆(代理人古沢寛吾)、同山本留右衛門、同西村正喜が承認した旨の記載のある乙第一五号証(特別管理人承認書)は、≪証拠省略≫により、前記乙第一四号証の成立に関して説明したと同様、藤井哲夫により作成名義人の不知の間に、同人らの印章を用いて作成されたものと認められ、真正に成立したものと認められないので、右承認のあった事実を認定する証拠となし得ず、その他には右承認の存在したことを認定するに足る証拠はない。

しかし、同法第二二条第三項但書によれば、特別管理人の承認なきことによる処分の無効は、これをもって善意の第三者に対抗できないものとされているところ、≪証拠省略≫によれば、八十二銀行は同二九年七月一二日不二越精機株式会社に前記土地六、〇四二坪の所有権を譲渡し(後記第三項参照)、その旨登記手続を経由し、同会社は同三一年一月二七日、右土地中本件土地を被告に売り渡し、その旨登記手続を経由したことを認定することができ(右各登記がなされたことは当事者間に争いがない)、そして、被告が右買い受けの当時、前記特別管理人の承認欠缺の点につき善意であったことは、原告の明らかに争わないところである。そうすると被告は、右但書の善意の第三者に該当するから、原告は本件処分の無効を被告に対抗できないものといわなければならない。この点につき、原告は、右但書の「第三者」は特別経理会社との取引の相手方のみを指称し、それ以外の第三者を含むものではない、かりに相手方以外の第三者を含むとしても、それは相手方から直接新たに利害関係を取得したもの(本件の場合は不二越精機株式会社)に限定すべきである旨主張する。しかしながら、右但書の規定自体「第三者」の範囲につき、それが善意であることを要するのほかなんらの制限を付していないのみならず、右但書が取引の安全保護のために設けられたものである趣旨を考慮するならば、右の「第三者」に処分の相手方を含むかどうかはさておき、とにかく相手方から転々と、処分の無効を主張する者と矛盾する新たな法律上の利害関係を取得するに至った者は、広く右の「第三者」に含まれるものと解すべく、その範囲につき、原告主張のごとき限定を付するのは相当でない、というべきである(なお、この見解によれば、悪意の第三者からの転得者も、善意である限り保護されることになるが、このことをもって、無から有を生ぜしめる不合理だという原告の主張はあたらない。けだし、前記第二二条にいわゆる「無効」とは、すべての人に対して主張し得る絶対的無効ではなくて、「善意の第三者」に対しては主張し得ない相対的無効を意味するものであるからである。また、原告は、右の見解によれば、法律関係は、永久的に動揺を続け安定を欠くに至ると批難するけれども、前記第二二条が特別経理会社の財産保全と取引の安全保護との調和を、右のごとく相対的無効の規定で処理した以上、その限りで法律関係の安定をそこなうことは、法の予期するところというべきであるし、また、特別経理会社としては、善意の第三者が出現する前に、処分禁止の仮処分等によって自己の権利を保全する途があるのみならず、一旦善意の第三者が出現すれば、それ以後の利害関係人は、悪意であっても、処分の無効を対抗されないと解されるので、法律関係が永久的に動揺を続けるものでもないのである。)。

以上のとおり、原告の特別管理人の承認欠缺の主張も、結局排斥をまぬかれない。

(四)  会社経理応急措置法・企業再建整備法の強行規定違反の点については、前記のとおり、当時原告について整備計画の認可なく、同計画の実行による再建手続は未だ開始されていなかったのであり、従って会社財産等の処分には、右応急措置法の規定により、制限される場合があったわけである。原告の主張は、旧勘定所属財産を新勘定所属債権の担保として所有権を移転した行為は、同法第一三条の法意に照して無効であると主張するものであるが(決定整備計画の定めによる処分でないから無効である。とも主張するようであるが、決定整備計画なき間も、同応急措置法によって許容される限度で会社財産の処分はできるのであるからこの主張は失当である。)、旧勘定として分離決定された不動産は、その旨の登記手続を経由しない限り、これが旧勘定に所属することを第三者に対抗できず(同法第八条第六項)、右登記のなされたことは原告の主張・立証しないところである。そして、新勘定所属債権担保のため新勘定所属不動産の所有権を債権者に移転することは、たとえそれが、代表者を原告の特別管理人とする債権者会社に対してなされたものであっても、これを無効とする強行法規は見出し得ないので、右主張も採用できない。

(五)  暴利行為の点については、前記のとおり、原告と八十二銀行の間の土地処分は、原告の経営が安定するまでの間同銀行が管理し、原告が債務を弁済した時にはこれを原告に返還するとの前提のもとに、同銀行の原告に対する金銭債務の担保として所有権を移転するという内容のものであると認定されるところ、かような趣旨の所有権移転(譲渡担保)においては、特段の事情のなき限り、譲渡担保権の実行に際しては、同銀行において前記土地を取り切りできるものではなく、何らかの方法で債権額と土地価額を精算すべきものと解すべきである。そうすると、仮に土地価額と債務額との比率が、原告主張の如きものであったとしてもそれだけでは暴利行為となすことはできず、その他には前記土地処分が公序良俗に反するものとうかがうに足る事情は見当らない。よって原告の右主張も採用できない。右のとおり、八十二銀行に対する所有権移転が無効であるとする原告の主張は、いずれも採用できない。

三、最後に、無権代理行為およびその追認の主張について判断するに、≪証拠省略≫によれば、つぎの事実を認定することができる。すなわち、前記のとおり、原告は、同二五年五月頃より事実上閉鎖し、銀行取引が不能の状態にあったので、同二七年一一月、藤井哲夫が中心となり、新たに原告と目的を同じくする訴外不二越精機株式会社を設立した。原告と同会社との間には、法定の営業譲渡・合併等の措置はなされなかったが、(会社経理応急措置法第一五条によれば、特別経理会社は、企業再建整備法による合理的な整備としてなされるまでは、解散、合併、組織変更または資本の減少のように、組織の変更を及ぼす行為をなすことは禁じられており、営業の全部の譲渡も、同条の趣旨によれば禁止されているものと解される)、当初の建前としては、不二越精機株式会社が製品の受注・資材の購入・販売に当り、同会社が経費を負担して原告が製造を担当し、債権者により差押えられ、あるいは債権者の手に帰した原告の不動産で、不二越精機株式会社が出資して、差押えを解除し、又は買戻したものは、同会社の所有とする、利潤は均等分配する、などの約束で発足し、その後この建前は、実際にはそのとおり実行されることなく、事実上、同会社が原告の工場・工場敷地・機械器具・事務所・営業所・従業員等をすべて利用して、全面的に原告に代って営業を継続し、原告の債務も逐次弁済していた。同二九年七月、同会社の経営が安定したので同会社の当時の代表取締役藤井哲夫は、原告と八十二銀行との前記返還約束を根拠に、同銀行の倉石基雄に対し、前記土地六、〇四二坪の返還を要求し、同人はこれに応じ、未だ営業を開始せず再起の気配を見せない状態にあった原告と、同会社とを明確に区別し、同会社に土地を返還する意思で、売買の形式で所有権を移転することを承諾し、代金額について交渉のうえ、同年七月一二日、原告が同銀行に対して負担していた、当時債権額に相当する金三、五〇〇、〇〇〇円と、右土地上に同銀行が所有していた若干の工作物(門・塀など)の代金とを合わせて、代金三、七〇〇、〇〇〇円をもって右土地を同会社に売渡し、同三〇年二月一八日、前記法務局同支局受付第三、一一二号をもってその旨登記手続を経由した。

以上のように認定することができ、右認定を覆えすに足る証拠はない(右登記手続がなされたことは、当事者間に争いがない)。

右にみた経過よりすれば、形式としては売買の形式がとられたが、実質においては、同銀行の承諾の下に、原告が負担する債務を不二越精機株式会社が弁済し、担保物の返還として、同銀行より同会社に右土地の所有権が譲渡されたものと解するのが相当である。

ところで、債務者以外の第三者が、自己の名で債務を弁済した場合には、第三者の弁済に関する法理によって法律関係が決せられ、原告主張のように無権代理行為、の法理を類推する余地はない。すなわち、第三者の弁済があった場合には、第三者が債務者に贈与する意思で弁済した場合等特別の事情が認められる場合の他は、第三者の債務者に対する求償権を確保するため債権者が担保として有していた権利は、当然に(弁済につき正当の利益なき第三者の場合は、債権者の承諾を得て)、弁済をした第三者に移転するわけであって譲渡担保においてもその例外ではない。そうすると、前記した不二越精機株式会社設立時の建前、すなわち、同会社が出資して取り戻した原告の不動産は、同会社の所有とする旨の約定が、そのまま適用されるとすれば勿論のこと、その約定の有効・無効、解消の有無にかかわらず、同会社は、少なくとも譲渡担保契約上の所有権を有効に取得したものと言う外ないのである。従って、原告が、同会社による第三者の弁済を「追認」したからと言って前記土地が原告の所有となるいわれはないので、原告の右主張は採用できない。

四、以上の次第で、その余の争点、特に、原告と不二越精機株式会社との間で、有効に営業譲渡がなされたとして取扱うべきか否かについて、判断するまでもなく、原告の請求はすべて理由がないので棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 佐藤邦夫 加藤英継)

<以下省略>

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